人は見かけや定評によらないと実感する時間








紡ぐ言の葉











私が彼に初めて出会ったのはいつかは知らない




意識した事もなかったけどいつかしら知っていたというか




ただ一方的に私が知ってたといった方が正しい




別に憧れてたとかじゃなくただ色々品評されてる人だから自然と名前を知ったって感じで




ちゃんと顔と名前をシンクロさせたのは2年の時の役員選挙の時だったかな




圧倒的な支持を得て生徒会長になった男




手塚国光




三年は卒業ということで2年から生徒会役員が選ばれる為、1〜2年から何人もの生徒が立候補して演説する中会長だけは信任投票となった




つまり他は誰も立候補しなかったという事




それはあまりに彼が生徒の信頼を持っている事を皆知っていたから




彼が生徒会長にふさわしいと誰もが認めたから




当然私も信任に一票で




不信任が一人も出なかったのは初めてだとかいう事も聞いた(いやそういう情報が流れるのどうかと思うよ選挙管理委員…)




ついでに私はその時何故だかジャンケンに負けて会計とかいうモノに立候補させられた




担任が「クラスで一人は何か立候補してもらわないと俺が恥ずかしいだろ!」とか訳解らない事抜かしやがったからだが




そんで適当に演説したら当選してしまったという懸賞に活かした方が何倍も実用的であろう運を使ってしまった















そんな彼と3年で初めて同じクラスになった




あげくは隣の席になってしまう始末




何でこんな真面目を絵に描いたようなヤツと…と考えていたのはつい最近までの事




私が考えていた以上に彼は






面白いヤツだ






面白いというよりは何か天然なのね




普通に知ってることを知らなかったりとか




思ってもみない行動をしてみたりとか




しかし定評が生んだ盲目といえようか




誰もそんな事には気付いていないのだ




何で…





、これは何だ?」



「はい?」





手塚が指差す先には




プリクラ




誰が落としたんだよ…





「…え?いやそりゃあ…プリクラでしょうが」



「……では何故文字が書いてあったりするんだ?それに変なイラストまでついている…パソコンで加工しているのか?」



「…あのね…時代は常に移りゆくものですのよ?アンタいつの時代のプリクラの話してんの?」



フレームを選べるのは知っているぞ





お前何時の時代の人間だよ本当に




っていうかあんまり深く突っ込むとまた漫画の世界の均衡が取れなくなるから黙っておこう




何かお守りしてる気分になるよこんなの




よくこれで疑われもせず部長や会長が務まるよね




まぁそれが最近の日常な訳で




ここまで世話を焼いてやるのは生徒会のよしみか




若しくは隣人愛か




何でも良いけどね別に













それにしても隣の席にいるとつくづく思うのよ




コイツ本当に人気あるなぁってね




手塚を遠くから見つめてる女子は幾人も(数えきれない)




声をかけてくる勇敢な女子は数名




そしてことあるごとに手塚に質問攻めにされる私の肩身の狭さ(しかもムカつく事に周りからは私が教わってるように見えるらしい)




いや代わってやりたいけどね、手塚に過剰なイメージ抱いてると完璧ドン引きするよコレ




という訳で私のせめてもの目立たない手段




手塚の名前を呼ばないことを決行するにいたる




だって何かね「手塚君」って呼んでる女子は沢山いるのよ、でも「手塚」なんて男子しか呼んでない訳よ




だからといって呼び方を変えればそれこそ馬鹿馬鹿しい




ッつー事で適当に「会長」「部長」などなどと呼んでいる




その甲斐あってかなかってか未だ女子からの呼び出しをくらったことは無い(笑顔)




そして今日も今日とて授業は始まる訳でして




どうせ教わってる風に見えるなら授業の内容でも聞きたいと切に思う













まぁいつもあんなんでもやっぱり生徒会の仕事はこなしてる




っていうか私もやってるんだけど基本的に会計と会長って一緒に仕事するとかないしね




どっちかっつーとそれは副会長の役目って感じだし(副会長女の人だし)




まさか副会長を困らせたりはしてないよね…?…でも副会長の反応からしてもそれはないらしい




どうやればあんなに見事な外面を作れるのか不思議で仕方ない




なんて事を考えながら視線を前に向けると手塚が書く整った字がホワイトボードを駆けた




内容は





地獄だ

















「何で募金なんてモンがあるんだ畜生〜…!!」





ええそうです募金です




会計がこれでもかというほど使われる企画




毎日毎日遅くまで残って一週間ほど十円玉だの五円玉だのを数えなきゃいけない企画




しかも手伝ってくれる筈の書記の人はインハイが近いとかで抜けている




私一人が生徒会室に残って十円玉を十枚ずつ積み上げていくという…そりゃもう




よ●この有野もビックリな地味な作業をしてる訳よ




いやだってマジでしんどいよこれ、有り得ないよ多すぎるよ




全校生徒数1442名(+教師)何だコラお前ら良い子過ぎるだろ何でこんないっぱい入れちゃってるかなぁもう




クラスに一人はいるんだよ家にある一円玉かき集めて持たせる親ってのがさ




何だコレもう瓶いっぱいに詰まってるじゃないか




くそ!こんな事任せられるんなら私がちょっと頂いたってバチ当たんないぞ絶対!





「当たるに決まっているだろう」





ガラッと扉の開く音と共に手塚が入ってきた




げ…聞かれてた…





「…別にいいじゃん…ちょっと大変すぎるから言ってみただけだし」



「解っているが…ココは普通突っ込む所だと思ってな」





お前が普通を語るなよ




っていうかそういう知識はあるんだよね、何その一貫性の無さ





「会長は何しに来たの」



「…書類の提出が今日までだからな、部活を抜けてきた」



「…やろうか?もうすぐ大会とかじゃなかったっけ?」



「お前に出来るなら最初からお前に任せる」





…私は奴隷かオイ




まぁね、帰宅部は私だけだけどさ




そしてさり気なく馬鹿にされてるし。いやかなり大胆に馬鹿にされてるし




分厚い書類の束を持ったまま、すとんと私の前の席に腰掛ける




こうやって見るとモテるのも納得いくほど美形って事は何となく分かるんだけどね…




なにせボケてるからなコイツ……




まぁいいや、とりあえず私は自分の仕事を片付けなきゃ




とまた10枚ずつ小銭を重ねるという地味な作業に戻った

















「ねぇ眼鏡」



「俺は物ではない」



「いやいやアンタの理論からいくと私モノに話しかけるとんでもなくイタイ奴になっちゃうから」



「そうではないのか」



「言うようになったねアンタ」



「お前と話すようになったからな」



「(…真顔…)」





私やっと半分ちょい終わったよ、今の時点でだいぶ疲れてるよ




それに引き換え手塚はかなり順調なペースで書類を片付けていく




っていうか実際書類って何するのかもよく知らないんだけどね…まとめたりとかすんのかな





「そういや自動で小銭数える機械ないの?あったんじゃないの?」



「先日壊れてそのままだそうだ」





妙なトコケチってんじゃねぇよ青学!何だよコンピューター買う事に比べればはるかに安いだろコラ!!





「…眼鏡ぇ…手伝う気ない?」



「ないな」



「……私お駄賃もらえるかしら」



「確実にないな」



「…やっぱりか…うん、いやいいんだけどね、そりゃ眼鏡の方が忙しいだろうしね」



「…お前と一緒にするな」





ななななんて毒舌なんざましょ!(誰)




誰よこの子をこんなに育てたのは!(多分アンタだ)

















何故だかいらいらする




別にと居る事が嫌なわけではなく




さっきからが俺に対して話しかけてくることでもなく




よく解らない




ただの言葉を聞く度に




何か突っ掛かりを覚える





「今日は書記の斉藤もいないんだよね…だから会長に回ってきてるの?」



「……関係ない、書記は本来生徒会誌を作る為にいるからな」



「じゃあぜってぇ会計一人って可笑しい…!なんだよこっちのが大変に決まってんじゃんよー」



「俺に言うな…」




どうもこの胸の突っ掛かりは消えそうにも無い



















ぶつぶつと文句を言っていると生徒会室の外から女の子の声が聞こえてきた





「手塚君って何処にいるんだろー?」



「えー?分かんない、テニスコートにはいなかったんでしょ?」



「うん、でも校内にはいるみたいなんだよねー」



「あっちじゃない?」





おやおやどうやら『手塚君を慕う会』の方たちみたいだね、手塚が生徒会室にいる事は考えないんだろうか…




いや確かにココに来られても困るんだが、モテる男ってのも辛いんだね…




手塚って何でかこういう事に関しては鈍くないんだよね…うん





「会長、呼ばれてますよ。行かなくていいんスか」





冗談ぽく笑いながら言ってやると





「……は……」



「え?………何?何て言った?」



「二人きりの時くらいは名前を呼べ!」





こちらを睨み立ち上がる手塚




その眼光は鋭く、衝撃で机が揺れて




でもそれより驚いたのは




言葉の内容だ


















自分で言って驚いた




俺は何を言っている?




別にが俺の事をどう呼ぼうが俺には関係ない、の勝手だ




なのに




耐えられなかった




頭より先に声に出して言った




知っている




が目立たないようにと俺の事を名前で呼ばないことも聞いた




知っているはずなのに




何故




視線を戻すと






ぼろぼろと涙を流していた








「…!…すまない、怒鳴ったりして悪かった…別に俺は怒っている訳では…!……その…」



「うわあぁぁー!手塚のばかー!折角数えたのにーー!!」





ふと机を見ると




俺が立ち上がった衝撃でがかなりかかって積み上げた小銭の山が崩れていた




………悪い事をした……




あぁでも反省より





「……やっと呼んでくれたのか」



「…畜生お前絶対今からてつだっ………うん、呼んだね今」



「……お前が他のヤツの名を口にする度いつも思っていた、俺の名前は呼ばないのかと」



「……そうだったんスか」



「…二人でいる時くらいは…と思ったのか…よくわからないが…何故なんだろう」



「はい?」
















もしかして何




……ここまで言って「僕子供だから難しい事はよく分かんない」ってか?




…アンタの頭にはそれ=恋愛感情っていう方程式は生まれないのか?なぁ




いや自分で言うのも恥ずかしい(し自意識過剰っぽい)話だけどもさ




手塚




お前自分の紡ぐ言葉がどれだけの力を持ってるのか知らないだろう




私もう絶対意識しちゃうよそんなん言われたら





「……



「何ですか手塚くん」



「お前が俺の名前を呼ぶと嬉しいんだ」



「はっ……///」



「…俺はお前の事が好きなんだろうか」



「なっ…何を…!?」





そんな真顔で聞かれても困るよ!





「そうか……そうだとすれば、、お前の答えを聞く必要がある」





答えなんて




初めから決まってるじゃないか





「…好きじゃない訳ないじゃんかよ!もう…好きでしたよ隣の席になった時から!」



「…俺はもっと前から好きだったかもしれない…お前が役員になった時から…か」




あぁ




眩暈がしてきた




何でコイツ普通にこんなことが言えるんだろう




天然ってのは恐ろしい





「……手伝おう、と一緒にいられるなら遅くなっても構わん」



「な゛ぁ…!?」



「…何がおかしい」



「手塚…アンタいつからそんなキャラになっちゃったの?え?何?全部私の所為か?私が手塚をこんなキャラにしちゃったのか?」



「…そうだな、お前が俺を変えた。…というか手塚でなく国光と呼べ」



ててて手塚ー!?どうしちゃったの!あああどうしようホントに私の所為なのか…!!



「俺がを名前で呼んでいるのにお前だけが苗字というのも可笑しいだろう」



「いやいやさっきよりも願望の規模がはるかにデカくなってますよ」



「国光と呼べ」



「く…国光」



「…教室では手塚で我慢しておいてやるが



「結局呼ばせる気かオイ」



当たり前だ、これから二人きりになった時は名前で呼ばないとおしおきだからな」



「……お…おしおき…って」



「言って欲しいか?」



「……その時になれば聞かせていただきます」





あぁ




手塚をこんなにしたのは私なのか




それとも実は初めからこういうヤツだったのか




読めないヤツはよく解らん




でもとにかく




すんげぇ我儘ってことは分かった











私にしか見せない顔があるなら




それでいいよ














******あとがき******

恥ずかしいなコイツ

いやなんか最終的に手塚じゃなくなったっていうか…はい、反省します

最近気付いたんですが私彼氏彼女とかいうのとかよりも、恋愛のプロセスを書く方が好きみたいですね

始まり方は色々唐突だったりするじゃないですか、いいなぁって思うんですねきっと

……手塚は一度「コイツが好きだ」と気付いたら暴走しそうな気がします。妄想もいいトコですね

実際天然部長は大好きなんですが


05/04/17
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