馬―――――鹿っじゃねぇの、私












無意識の意識













「……あぁ…最悪、折角帰り道を激烈浮かれた気分で歩いてたのに半分過ぎた時に忘れ物に気が付くとか…ないわ…」





でも弁当箱だしね……忘れたら明日が大変だものね……仕方ないんだけどね……面倒じゃん




もう誰も残ってないよね…さすがに。校舎内に人はまばらだ、既にみんな帰宅の準備を整えて家路に着こうとしている




うちのクラスには誰が残ってるかなー、それとも誰も居ないかな…と




あれ、扉閉まってる。え、もしかしてもう閉められた?ないよね、まさかね、大丈夫だよね




もしや鍵が閉まっているのではないかと思い、いつもよりも強めに取っ手に手を掛けて、その勢いで引き戸を引いた










がら


ぴしゃん





その間わずかに1秒以内




開けて、閉めた




その動作が1秒以内




開いてたってことはもうどうだっていい




必死に足を動かしながらさっきの光景をふと思い返してみる




私のダチトモが…




男友達の忍足侑士が




………





「(いちゃつくならもっと他所でやってくれェェェ!!!堂々とキスなんてしてんじゃねぇぇぇぇッ!!!!!)」





しっ、し、しかも、あの、絶対それ以上のことに発展しそうな雰囲気満々!!!言うなればB果てはC!!!!




考えられん…!つーか相手の子誰だろ……見えなかったもんなー……





「…はっ……はぁ、はぁ」





玄関まで来た所で息を整えた




玄関からも走って逃げるのもいいけど、それは目立ちすぎる……下手したら、教室から見てたら、バレるかもしれない




だからここはいつも通り、普通に、は?走ってた?さっきまで?誰が?みたいな顔して出て行くのが得策だ




そう自分を落ち着けて、靴を履き終わったつま先で床をトントンと蹴った




大丈夫 ばれてない




だってさっきのあれはかなりミラクルだった、何がって私の反応とその速度が




普通漫画とかであーゆーシーン見ちゃったら絶対少し放心して相手がこちら側の顔を確認するまでの時間が出来てしまう




だがしかし私の反応はどうだ




開けた、前方確認やべこれヤベッ!!!閉めた




うん、絶対に見られてない。誓ってもいい(誰にかは分かんないけど) マジで天才的私すげぇ






………別に






…別に、アイツがそういう類の性格だってことは重々承知してる




多少女遊びはしてるだろうなとも思ってたし、本人もそういう風な事は言ってた気がする




あいつがかましてた行為に驚いたわけじゃないのだ(いやそりゃあビックリはしたけども)




ただ、あんなのを見てしまうと、忍足もやっぱり男なんだなって。それを目の当たりにしたようで、それに驚いた




気さくに話を交わす男友達は、当たり前だけど、男性だったのだと




でも滅多に無いよあのシーンを生で見るとか……え?結構ある?いや、じゃあ…私の人生の中ではないはずだった、のに




明日から一体どう接すれば良いのだろう……いや何言ってるんだ、見てないを押し通す、何のために逃げたと思ってんだ




校門を後にして、後ろを振り返ってから最大級に大きなため息をついた




嘘をつくのは嫌いだ、でも苦手ではない、むしろ得意だ
















「ん、何?」



「あの、昨日やねんけど……放課後学校いてた?」



「うん、いたね」



「…………見たか?」



「は?」



「あの、せやから……昨日、俺を」



「見たよ、っていうか見てないほうがおかしいでしょ。同じクラスなんだからさ、毎日会うし」



「そうと違て……あー…見てへん、の?」



「はい?何を?忍足を?だから見たってば。なにどしたの、何かあったの?」



「いやいやいや、スマン、何か変な事聞いてしもたな。忘れてくれてええから、ごめん」



「……そう?」





主演女優賞受賞だよ




何この完璧なまでの演技は!!!超自然!!全くいつも通りで不審さの欠片すらない!!逆に自然すぎて不自然なくらいじゃねぇ!!?




…ってかそれよりも何で忍足は私の事疑ったんだろう…校門から出て行くところでも見られてたかな(やっぱり)





「なぁなぁ、どーしたんだよ。えらく侑士に突っかかられてたじゃん」



「別に…昨日何を見たか見てないかみたいな感じで色々…結局私じゃなかったみたいだけどさ、向日ワケでも聞いてきてよ」



「え、無理。だって侑士だぜ、絶対女の事に決まってるって」





うんまぁさすがはパートナー……大当たりですよ向日君




私が無言で納得したような表情を見せると、向日は私の前の席にすとんと陣取った




話題を変えて、昨日のテレビの事を話し出した向日の何気なく動かされた腕がふと目に入る




……違うなぁ




やっぱりああいう場面を見てしまうと、やたらと意識してしまうもので




忍足を盗み見ると、腕に付いた程よい筋肉が(心なしか昨日より)男を匂わせていた




自分の腕と比べてみれば、違いは火を見るより明らかだ




…それなら向日も一応男なんだけど、忍足ほどではない(どっちかっていうと華奢だよね向日…)(怒るから言わないけど)




適当な相槌を返していると、たまたま忍足と目が合った




何となく気まずく感じて、不自然ではないように向日に視線を戻す





あんなところをみて、平気なわけないじゃないか





今まで漠然と受け入れてきた事実を、急に現実として目の前に突き出されたような感じ




彼は女の子とあんな所であんな風に接してあんな風に遊んで、しかもそれを色んな子と……って




ああもう駄目だ何か頭痛くなってきた。考えられないし信じられない…忙しいヤツ…





「……向日はずっとそのまま純粋に育って欲しい……」



「は?イキナリ何言い出すんだよ」



「私の切なる願いです…お願いだからパートナーの変な影響受けないでね向日」



「受けるかっつーの!!つーかお前さっきから俺の話聞いてねーだろ!!!














その事件もまだ記憶に新しいある日、私と向日と忍足は放課後の教室で覚え書き大会なるものをして遊んでいた(水曜でテニス部がオフだから)




覚え書きっていうか昔懐かしのキャラとかそういう系統のだけど





「……確かこんな感じだったはず…じゃない?」



「ちっげぇよ絶対ぇ俺のが合ってるって、鼻とかこんなだったって、なぁ侑士?」



「ちゅーか尻尾がまずちゃうやろ、俺のがいっちゃん近い気ィするわ」



「いや!それを言うなら私のだって耳の辺りとかモノホンだってマジで!!!…多分」



「オイ待て!鳴き声書くのとかズルくねぇ!?」





暇潰しに始めてみると意外と白熱し出して、それなりに時間も経った頃だった




よーしもういっちょと新しい紙を取り出した瞬間、指に熱が走って顔を顰めた





「痛っ!!」



「…え、指切った?」



「……っぽい…ついてないね。あれ、結構血ぃ出てきた」



「深ぁ切ったんちゃうか?…どれ、ちょお見してみ」





そう言って忍足が私の手首を掴んで自分の方へと引き寄せた









私の意識は掴まれた手首の感触一点に集中した




違う、やっぱり




自分よりも大きな手のひらが、自分の手首をいとも簡単に包んでいる




その骨ばった感触に、痛みもそっちのけでただただ意識は持っていかれる一方で




だめだ駄目だこんなんじゃ駄目だ




だけど




意識しないなんて無理だよ





「い、い!!大丈夫ッ!!!」





半ば叫ぶように声を絞り出して、掴まれたその手をモロに振り払った




あああ違う、違うのに




でもやってしまった





「ご、ごめん!!!別にイヤとかそんなんじゃないんだけど…その、大丈夫だから!!保健室行って絆創膏貰ってくるね!」





逃げるように教室を飛び出した




向日はさっぱりワケが分からないという顔をしてた




忍足は




唖然としてたな




最悪だ私、勝手に男の子を意識してしまった上にあんなに露骨に振り払ったりなんかして絶対不審がられたよ馬鹿!!!




嘘をつくのは、嫌いだ。でも、苦手じゃない。得意だ




得意だと思ってたのに、あんなに盛大に態度に出しちゃったら





きっと、嫌われた





沈んだ気持ちのまま、誰も居ない保健室で絆創膏を探す




もう友達としてすらやっていける自信がなくなってきた…




忍足が向日くらい華奢だったらな…怒られるだろうけど本当のことだしな…





がら





びくりと体が竦んだ




慌てて音のした方を振り返る





「お、忍足。心配要らないって言ったのに……」



「いや、それもあんねんけど……お前やっぱり見たんやろ?この前」



「だから、何を」



「……お前にそんな態度させてしまう原因なんて、あれくらいしか思いつけへん」





そこで彼は俯く




"あれ"




分かってる、忍足が言いたい事なんて。だって、私がひた隠しにしてきたのだから




彼は顔を上げると同時に口を開いた





「無意識に、大事に大事にしてきたのに、俺がお前に何かしてしもたやなんて考えられへんねん」



「…だからなにも」



「正直言うて、目撃した人間なんて全然分かれへんかったし、検討も付けへんかった。せやのに何で俺がお前を疑ったんやと思う?」



「…知らない…」





尋問されているようで、まともに忍足の顔が見られない





「突き詰めて考えても、誰疑っても、最後にいっつも出てくるんがお前やってんなぁ…

俺にとっての最悪のパターンはお前に目撃された場合、まぁ一番見られたくなかったんがお前やったっちゅーことや」





なに言ってんの




それってどういうこと





「い、み分かんないんだけど」





戸惑ったままに再度忍足に視線を向ければ、彼が浮かべていたのは、困ったような苦笑いで





「俺も分かれへんかってんけど」





そして彼には不釣合いなほど、紅潮した頬




嘘じゃないか、と私は誰に言うでもなく思った





「初めて気付いてんけどな…ホンマそれまで考えもせえへんかったのに、俺もビックリやで。気付き方も何や情けないやろ」





絶対アンタより私のほうがビックリしてるっつーの




でも何故か声すら出せなくなって




胸とか喉とか瞳の奥だとかが、やけに熱い




何かが溢れてしまいそうなほど





「なぁ、気付いてしもてんけど、お前が好きやって。どないしたらええやろ?」





さっきとはまた違った、柔らかい微笑を浮かべて彼が問う





嘘をつくのは、やっぱり苦手かもしれない





だって、彼と同じくらい赤くなったこの顔で、嘘なんてつけるはずがないじゃないか
















*******あとがき*******

実は11月あたりに完成してた品です。何となく納得いかなくて放置してたけど

何かもう直すのも面倒だったので(あと勿体無かったので)UPを

忍足って結構遊んでるイメージがないこともない。私の中ではいつまでもヘタレ(で変態)な彼ですが☆


08/12/28
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